大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10667号 判決

原告(反訴被告)

グリコ協同乳業株式会社

右代表者

花登紀一

右訴訟代理人

柴田政雄

鹿児嶋康雄

浅田千秋

被告

伊藤トシ

被告(反訴原告)

伊藤勝良

右両名訴訟代理人弁護士

梶山公勇

主文

一  被告伊藤トシ及び被告(反訴原告)伊藤勝良は、原告(反訴被告)に対し、各自金二七五万四九三二円及びこれに対する昭和五三年一一月九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  被告(反訴原告)伊藤勝良の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その一を原告(反訴被告)の、その一を被告伊藤トシの、その余を被告(反訴原告)伊藤勝良の、各負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自三七五万四九三二円及びこれに対する昭和五三年一一月九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し、一五〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一一月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二  当事者の主張

Ⅰ  本訴請求関係

一  請求原因

1 原告(反訴被告。以下、原告という)は、牛乳・乳製品等を製造販売する株式会社である。

2 原告と被告伊藤トシ(以下、被告トシという)とは、昭和四七年七月一日、原告を売主、被告トシを買主として、原告の製造する牛乳・乳製品等について、代金は毎月末日締切、翌月七日限り支払の約定(但し、その後、現実には弁済期は翌月一〇日、一二月分については翌月一七日と変更)で、継続的取引契約(以下、本件取引契約という)を締結した。

原告と被告トシとは、本件取引契約において、原告又は被告トシが右契約に違反した場合には、それぞれ相手方に対し、違約金として一〇〇万円を支払う旨を約した。

3 被告(反訴原告)伊藤勝良(以下、被告勝良という)は、原告に対し、昭和四七年七月一日、被告トシが本件取引契約に基づき原告に対して負担すべき債務につき連帯保証した。

4 原告は、被告トシに対し、昭和五二年一二月一日から昭和五三年二月二〇日までの間に、本件取引契約に基づき、牛乳・乳製品等を合計代金二七五万四九三二円で売り渡した。

5 昭和五三年一月一七日、同年二月一〇日、同年三月一〇日は経過した。

6 よつて、原告は、被告トシに対し、本件取引契約に基づき、右売買代金二七五万四九三二円及び右違約金一〇〇万円(合計三七五万四九三二円)並びに弁済期後であり本件訴状が被告トシに送達された日の翌日である昭和五三年一一月九日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告勝良に対し、連帯保証契約に基づき、右と同額の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実のうち、1、5を認め、その余を否認する。

Ⅱ  反訴請求関係

一  請求原因

1 原告は、牛乳・乳製品等を製造販売する株式会社である。

2 被告勝良と原告とは、昭和四七年七月一日、原告を売主、被告勝良を買主として、原告の製造する牛乳・乳製品等について、継続的取引契約を締結した。

3 原告は、被告勝良に対し、昭和五三年一月一二日以降、右契約に基づくプッチン・プリン(以下、プリンという)の供給を一方的に停止し、同年二月二一日以降プリンを含む牛乳・乳製品等のすべての供給を一方的に停止した。原告の右停止を実施する意思は、強固なものであつた。

4 被告勝良は、右2の取引契約を継続することによつて、今後の稼動可能期間一四年間にわたり、営業収益をあげることができたはずであり、その現価は、二八三九万七八三三円である(算出経過は、別紙計算書のとおりである)。

5 原告と被告勝良は、原告又は被告勝良が右2の取引契約に違反した場合には、それぞれ相手方に対し、違約金として一〇〇万円を支払う旨を約した。右違約金は、違約罰を定めたものであつた。

6 よつて、被告勝良は、原告に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、右二九三九万七八三三円のうち一五〇〇万円及びこれに対する本件反訴請求を右のように整理して記載した準備書面を陳述した本件口頭弁論期日(昭和五五年一一月五日)の翌日である同月六日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実のうち、1を認め、その余を否認する。

三  抗弁

1 契約解除

(一) 原告は、被告勝良に対し、昭和五二年一二月一日から昭和五三年一月三一日までの間に、請求原因2の取引契約に基づき、牛乳・乳製品等を合計二五六万五七八〇円で売り渡した。右代金の弁済期は、右一二月分については、昭和五三年一月一七日、右一月分については同年二月一〇日の約定であつた。

(二) 原告は、被告トシに対し、昭和五三年二月一六日到達の書面で、右代金を同書面到達後五日以内に支払うよう催告し、右期限の経過とともに前記取引契約を解除する旨の意思表示をし、同月二一日は経過した。

(三) 被告勝良は、右催告及び解除の意思業示を前提として、前記取引契約についての原告との交渉を担当していた。したがつて、被告トシに対する右催告及び解除の意思表示の効果は、被告勝良に及ぶと考えるべきである。

2 契約存続期間

請求原因2の取引契約において、その存続期間の終期は、昭和五七年六月三〇日である旨合意された。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実のうち、(一)の弁済期に関する部分及び(三)を明らかに争わず、(一)のその余の部分及び(二)を認める。

2 抗弁2の事実を認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一事実摘示について

一事実摘示のうち説明を要すると思われる点について、以下に判示する。

二本訴請求原因において原告の主張する代金債務の不履行について、被告トシ及び同勝良の主張する正当事由は、いずれも、本件取引契約の契約当事者が被告勝良であることを前提としており、本訴請求原因と両立しない事実を前提とするものであるから、本訴請求原因の抗弁として事実摘示をしていない。被告勝良の相殺の主張も、右と同様の理由で、本訴請求原因の抗弁として事実摘示をしていない。

三当事者双方は、原告のなしたプリン等の出荷停止の適法性に関して主張をしているが、この点に関し反訴請求原因としては、原告が契約上の供給義務を一方的に履行しなかつたということで十分であり、それ以上、その違法性を主張する必要はない。かえつて抗弁として、原告が右不履行に違法性はない旨を主張すべきであると解されるところ、この点についての原告の主張は、反訴請求原因2記載の取引契約の契約当事者が被告トシであることを前提としており、反訴請求原因と両立しない事実を前提とするものであるから、反訴請求原因の抗弁として事実摘示をしていない。

第二本訴請求関係

一請求原因について

1  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2〈証拠〉によれば、原告と被告らとの間において昭和四七年七月一七日作成された公正証書には、請求原因2(但し弁済期の変更の点を除く)の約定を含む継続的取引契約の記載があり、右契約における売主として原告、買主として被告トシ、買主の連帯保証人として被告勝良が記載されていることが認められる。右の事実によれば、特段の事情のない限り、本件取引契約の買主は被告トシ、買主の連帯保証人は被告勝良と認めることができる。

〈証拠〉を総合すれば、被告らは、原告から牛乳・乳製品等の供給を継続的に受けてこれを他に販売することを業としていたが、その営業を主として経営していたのは被告勝良であり、被告トシも右営業に参画・従事していたこと、本件取引契約の前身である昭和四二年六月一日の同種契約を原告と締結するにあたり、当時被告勝良が原告に勤務し固定給を得ていた関係上、被告勝良の妻である被告トシを契約名義人としたこと、本件取引契約の締結にあたつては従前の契約名義を踏襲したこと、本件取引契約に基づく原告への代金支払は被告勝良振出の小切手で行われていたこと、前記営業によつて得られる収入についての税金の申告名義人は被告勝良であること、原告から販売店を招待した旅行には被告勝良が出席したことが認められる。しかし、以上の事実は、本件取引契約の買主と連帯保証人についての前記認定を覆すに足りない。けだし、右のように被告勝良が前記営業の中心であり、支払小切手の振出人、納税名義人であるとしても、被告トシは、その妻で、同人も右営業に参画・従事しているのであり、このような場合、右判示のように被告勝良を契約名義人とできない事情があるときは、法律上の契約名義人を被告トシとし、実際上の履行を確保するため連帯保証人を被告勝良とすることは、一向に差し支えなく、この場合の被告トシを単なる形式的名義人として法律的に無意味のものと考えるのは相当でない。また、前記招待旅行に契約名義人である被告トシの夫被告勝良が出席することは、格別不自然なことではない。当事者の意思はあくまで買主を被告トシとすることで合致していたものと言わなければならない(〈証拠〉(内容証明郵便である原告宛通告書)及び〈証拠〉(原告による表彰状)が、いずれも被告トシの名義になつていることも、このことを裏づけるものである)。

以上を要するに、本項記載の各証拠を総合すれば、請求原因2(弁済期の変更の点も含む)及び3の事実を認めることができる。

3  〈証拠〉によれば、請求原因4の事実を認めることができる。

4  請求原因5の事実は、当事者間に争いがない。

5  そこで、請求原因2の違約金一〇〇万円の支払の約定に基づく違約金支払の義務が、右に判示のような被告トシの代金支払遅延によつて発生するかについて考える。たしかに、右違約金支払約定の文言によれば、およそ本件取引契約に対するいかなる態様の違反に対しても、右一〇〇万円の違約金支払の義務が発生するように見えるけれども、仮に右約定の趣旨がそのようなものであるとすれば、右約定は、公序良俗に違反するものとして無効と言うべきであるし、ある一定限度を超える契約違反に対してのみ適用する趣旨であるとすれば、被告トシの右代金支払遅延は、右の意味での契約違反と言うことはできない。したがつて、右約定がいずれの趣旨であつても、被告トシには、右代金支払遅延によつて右違約金一〇〇万円を支払う義務が発生することはないと言わなければならない。

二以上判示のとおりであるから、結局、被告トシは、原告に対し、本件取引契約に基づき、前記売買代金二七五万四九三二円及びこれに対する弁済期後である昭和五三年一一月九日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告勝良は、原告に対し、本件連帯保証契約に基づき、右と同額の金員を支払う義務がある。原告の各被告に対する請求は、右の限度において理由があるから、これを認容すべきであり、その余は、理由がないから、これを棄却すべきである。

第三反訴請求関係

一すでに、本訴請求関係における判示において明らかなように、反訴請求原因2の取引契約における買主は、被告トシと認められるから、反訴請求原因2ないし5の各事実は、いずれも、これを認めることができない。

二したがつて、被告勝良の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がなく、棄却すべきものである。

第四結論

よつて、訴訟費用につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条第一項を仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。 (伊藤滋夫)

計算書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例